野村喜和夫 nomura kiwao


 

●著者略歴

1951年埼玉県生まれ。早稲田大学文学部卒業。現代詩の最先端を走り続けるとともに、批評、小説、翻訳なども手がける。詩集に『川萎え』『反復彷徨』『特性のない陽のもとに』(歴程新鋭賞)『風の配分』(高見順賞)『ニューインスピレーション』(現代詩花椿賞)『街の衣のいちまい下の虹は蛇だ』『スペクタクル』『ヌードな日』(藤村記念歴程賞)『難解な自転車』『デジャヴュ街道』『薄明のサウダージ』(現代詩人賞)『花冠日乗』『妖精DIZZY』『美しい人生』(大岡信賞)、小説に『骨なしオデュッセイア』『まぜまぜ』など。評論に『現代詩作マニュアル』『オルフェウス的主題』『移動と律動と眩暈と』『萩原朔太郎』(鮎川信夫賞)『哲学の骨、詩の肉』『シュルレアリスムへの旅』など。また英訳選詩集『Spectacle & Pigsty』で2012 Best Translated Book Award in Poetryを受賞。

●『ディアロゴスの12の楕円』あとがきより

本書は、この10年ぐらいの間に私が行なった対談を集めたものである。私はかつて、「詩的接合のポリティクス」という詩論を書いたことがある。詩は、詩人は、ひとつの線にほかならない、他との接合を夢見ながら、きらめくか細い線となって表象の地勢の上を浮遊している、むき出しで純粋な欲望の線……
本書もその欲望の線の一環ということになろうか。全体は三部に分かれる。第一部には、私自身の詩と詩論をめぐっての対談を収めた。いずれも「現代詩手帖」に初出で(2017年4月号の特集「野村喜和夫と現在」および2012年8月号の鮎川信夫賞受賞記念対談)、快く対談を引き受け、拙作と向き合ってくださった小林康夫さんと杉本徹さんに深謝したい。
第二部と第三部には、雑誌「みらいらん」に連載された対談シリーズを収めた(北川健次さんとの対談のみ「現代詩手帖」に初出)。洪水企画の池田康さんから、「みらいらん」創刊に伴う連続対談の企画を持ちかけられたとき、「せっかくですから、私とコラボした異分野アーティストを迎えましょう」と提案した記憶がある。詩人同士で詩の現在を時評的に語り合うというのは、もうさんざんやってきたことでもあるし、避けたいと思ったのである。こうして、美術家の北川健次さんと石田尚志さん、そして作曲家の篠田昌伸さんと、コラボのあとの夢のような「アフタートーク」の場を設けることができた。第二部に収めたのはその三本である。
第三部は「詩歌道行」と題されている。ここでも他との接合を夢見つつ、同時代を生きる詩人や歌人を招いて、さまざまな詩の内や外のことを彼らと語り合った。フランスの詩やその翻訳について、先達の詩人の仕事について、詩作のバックグラウンドについて、、短歌と現代詩の交錯・交流について、恐怖という今日的なテーマについて、散歩のコスモロジーについて、書物の形態をも含めた詩の生き延びの道について。
前後するが、巻頭には詩篇「(ダウラギリ・サーキット・トレッキングのように……)」を掲げた。「みらいらん」連載の対談シリーズの中休みに、「野村喜和夫詩歌道行・番外詩篇」として発表されたからであるが、思えばこのシリーズを通して、私は同行の仲間たちと、あたかも詩の高所をめぐる想像力のトレッキングを敢行したのであろう。
「みらいらん」連載の対談は、東京世田谷のわがカフェ「エル・スール」で行われた。コロナ以前には公開形式であったと記憶する。カフェにはアンティークな趣の長楕円形のテーブルがあり、私たちはそのテーブルを囲んで語り合ったが、考えてみれば、二つの中心をもつ楕円は、まさにディアロゴス(対話)のあり方を図形的に象徴するようなところがあろう。タイトルに楕円という語を入れたゆえんである。
12人の対談者(杉本徹さんには二度登場していただいているので、正確には11人)にはあらためて感謝申し上げたい。