シリーズ しじんのえんせい

《詩人の遠征》シリーズは、詩の営為ではあるけれど必ずしも一般的な詩歌の形にはなっていない言語作品、小説・エッセイ・論文・戯曲といった隣接ジャンルの辺境をおびやかす冒険的作品を紹介し、文学の可能性を追求します。
造本=四六変形判並製小口折。

しじんのえんせい

 

1 ネワエワ紀
  池田康 著
80頁/本体1600円+税/2013.6.15/草場書房発売

新宿をさまよえば、新宿は回転し、反転し、裏返り、燃え上がり、ネワエワ川の魔の島ニウアークへとつながる……。詩はあらゆる創造行為の内部にかくれ、悪さを企て、あばれ、火花をまき散らす。詩はしばしば冒険する詩であり、遠征する詩である。そのようなジャンルの枠を侵す〈洪水〉的思考から生まれた表題作、および気分というはかない現象を考究するアクロバティックなエッセイ「気聞日記」を収録。

2 骨の列島
  マルク・コベール 著/有働薫 訳

208頁/本体1800円+税/2013.8.25/草場書房発売

フランスの詩人マルク・コベールの、日本の生活風俗を凝視するミステリー趣向の異色小説。刑事オガタが行う一連の捜査は、うわべは整った日本の社会を震撼させる渦に立ち向かう。窃視症と変態性欲も含まれるこれらの犯罪録は、失踪、あるいは蒸発、つまり市民が自発的に姿を消すという観念と結びつき、最後には、ひとりの哲学的美食家を快楽と死の極限まで見送る。あわせて詩三篇も収録。詩人・有働薫の友情に裏打ちされた翻訳による。

3 ささ、一献 火酒を
  新城貞夫 著

160頁/本体1800円+税/2013.8.25/草場書房発売

沖縄からうたう、沖縄から考える……。政治の季節を風に逆らって走る孤独の精神をうたう歌集「間歇泉」、沖縄の戦後の思想と思考のあり方をきびしく問い質す檄文風エッセイ「簒奪の帝国へのメッセージ」。歴史を見つめる思想家にして六〇年代前衛の気骨を継承する歌人・新城貞夫の文業の精髄がここに見いだせる。そして併録のインタビュー「サイパン、沖縄、そしてアジアへ」が現在の著者の考えを明らかにする。

4 『二十歳のエチュード』の光と影のもとに 〜橋本一明をめぐって〜
  國峰照子 著

160頁/本体1800円+税/2014.3.1/草場書房発売

戦後すぐの時期に『二十歳のエチュード』を書いて自ら命を絶った原口統三、原口の精神のあり方を受け継ぎながら、フランス文学の研究、翻訳、そして映画台本の執筆と幅広く活動した橋本一明の両者の生の軌跡を追うクリティカル・エッセイ。二人の詩と思想のドラマを再構築するなかでアルチュール・ランボーと著者國峰照子の視線が交わり、近代が激烈な渦をなす時代の一瞬の閃光を捕獲する。

5 永遠の散歩者 A Permanent Stroller
  南原充士 著

80頁/本体1600円+税/2014.4.1/草場書房発売

詩集は対訳の形で現れた。英語の詩が日本語に生まれ変わり、日本語の詩が英語に変貌する。両者は双子だろうか、互いの鏡像だろうか、土俵上の東西力士だろうか、それとも真作と贋作だろうか。二言語の詩的対話の散歩はどこへ向かうのか。永遠への眼差しを第三の目とする飽くなき試行の詩人・南原充士の新たな挑戦。

6 太陽帆走
  八重洋一郎 著

80頁/本体1600円+税/2015.12.1/草場書房発売

詩人は思想の姿を追う、少年が真昼まの草原で捕虫網を握りしめ美しい蝶を追うように。ツィオルコフスキー、臨済、ライプニッツ、マラルメ、メンデレーエフ、玉城康四郎、柳田国男、ポオ。ジャンルとスタイル、リズムとカラーを異にするさまざまな思想家の思想はやわらかく解きほぐされ、大きな帆布に織りあげられ、光を受け、「はるかな感じ」の水脈を曳いてゆっくりと宇宙へむけ出航する。

7 詩は唯物論を撃破する
  池田康 著

184頁/本体1800円+税/2016.2.15/草場書房発売

われわれの時代を根底から支配するマテリアリズムに対し、詩はその市場と位階から排除されることにより逆に角を突き上げ破れ目を作る可能性をひめている。現代における生の運命と詩の本質的使命を考えるタイトル作ほか、白石かずこ、佐々木幹郎、吉岡実の詩業についての考究、および〈転〉をキーワードにポエジーの宇宙のさまざまな現象と構造を経巡り精査するエッセイ連作を収める。

8 地母神の鬱 〜詩歌の環境〜
  秋元千惠子 著

208頁/本体1800円+税/2016.10.5/草場書房発売

うらうらと揚がるひばりの空の鬱 孵らぬ春に地母神の鬱──
いまや環境問題は見過ごすことを許されない巨大ものと化し、風の谷のナウシカが見出したのに劣らない規模の深刻さで静かに我々の生活を脅かしている。天地人の健やかな無垢を祈念し、文明論的思考を短歌の詠に組み込むことを生涯の課題として追求し続ける歌人・秋元千惠子の長い戦いを記録する散文集。

9 短歌でたどる 樺太回想
  久保田幸枝 著

128頁/本体1600円+税/2016.10.16/草場書房発売

ソヴィエトに対する前哨の地・樺太に生まれ育ち、戦後は家族と共に本土に引き揚げ、信州にその後の生の拠点を得ることになる少女は、成長しながら何を見、感じたか。短歌作品を過去を覗く望遠鏡のようにして語られる北限の風土と生活は、時代の特異な背景のもと、無数の断片の形で鮮やかな衝撃とともに迫ってくる。昭和を生きた一人の全身での経験を細やかにうたい記録する貴重な歌物語。