玉城入野 tamaki irino


 

●著者略歴

1968年東京都日野市多摩平生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。1998年、「耳鳴り低気圧」で第86回文學界新人賞最終候補。2008年、個人新聞「Irino Sketch」を創刊。2011年、詩歌・文芸出版社「いりの舎」を創業。

 

●『フィクションの表土をさらって』の「あとがき」より

 本書は、二〇一〇年より二〇一七年までの間に書き、発表した文章の中から、十四編を選んで収録した、私の初めての本である。
 目次をながめてみると、それらは、一見、脈略がなく、一貫性を欠いているように思える。だが、中身を読むと、この一冊には、なにかある通底するものが流れているようだ。もっとも、ひとりの人間が書いた文を集めたのだから、なんら不思議なことではないのだが、私には、ちょっとした発見であった。
 歌人であった父玉城徹についての文章を入れることには、正直、ためらいがあった。しかし、母に映画を見る喜びを教わり、父に文学を学んだことで、いまの私があり、本書が成り立っているのではないかと考え、巻末に収めることにした。
 その結果、最後に、「多摩平」と題した一文が入った。多摩平というのは、東京の日野市にある町の名である。そこにあった多摩平団地で、私は生まれ育ち、三十年ほどを過ごした。木々が鬱蒼と生い茂る森林の中に暮らしているようなその空間を、私は愛していた。だから、団地が建て替えられることになったとき、深い喪失感をおぼえた。そして、原子力発電所の事故によって、福島県浪江町出身の妻が、ふるさとを失うことになった。故郷について考察した文章が幾つかあり、島尾敏雄について、彼の本籍がある福島の小高に限って書いたのも、そのためである。これは、私自身の主題である。
 本書には、表土、平面、多摩平といった「平」に関連する言葉が見える。思えば、映画のスクリーンや本のページというのも、平面である。このことは、私の思考が、平地で育まれてきたことを意味するだろうか。